Designers Interview

SAISU
RIE

DESIGNER


話者1: 斉須 理恵氏
話者2: 取材者
話者3: 星(ディレクター)

PORTFOLIO

--よろしくお願いいたします。

取材者: 元々どういう経歴でデザイナーになられたのですか?

斉須:美大の時に個展をやったんです。その時一枚の平面で人を喜ばせたり、気持ちを動かせることに気づきました。そして広告に興味を持ったんですが、卒業時はまだ自分は広告の業界に就職できるレベルじゃないと思ったので、ポップカードを作る会社でバイトをしていました。その時、学生時代に作品を見せたことのある広告プロダクションから「うちに来ませんか?」と声がかかったんです。

二つ返事で夢の広告の世界に入れたんですが、理想と現実のギャップにだいぶ悩まされました。もっと夢のある世界だと思っていたらすごく泥臭い世界で。
ものを作っているというよりは、廃棄物じゃないですけど嘘も多い世界で気持ちが沈んでいると、上司から「広告の世界で生きたいんだったら汚くリッチで行くか、綺麗で貧乏で行くか。綺麗で貧乏で生きたいんだったら早く足を洗え」って言われました。
さらに、8人くらいの会社だったんですが、「小さい会社はデザインを潰す可能性があるし、私には向かない、大きな代理店で自分の城を築くか、フリーで自分の城を築くどっちかがいい」って言われたんですよ。

取材者: 上司も結構すごいですね。

斉須:その時まだ24とかだったので、ええ!?っていう感じでしたが、このまま広告の世界にいる気も起こせず、再就職の活動をしなかったんです。
ちょうどその時、友達も仕事辞めて、思い切って事務所を作ろうという話になりました。
場所も銀座のビルがとても気に入り、全然クライアントもいなかったんですが、その時の勢いで立ち上げたんです。

取材者: すごいですね。

斉須:盛大にオープニングパーティもやったんですが、クライアントもいないし仕事も無いので、沖縄旅行に行っちゃったんですが、旅行から帰る時、以前知り合った人から電話がかかってきて、仕事の依頼が来たんです。もちろん「やります!」と答えました(笑)。
その初仕事は新宿にオープンしたおでん屋さんの販促物だったんですが、今思ってもこの仕事が枝分かれになって今に繋がっていますね。

取材者: 仕事が来始めた?

斉須:その販促物を知り合いが見て、「ソニーミュージックの方がデザイナーを探してるんだけど紹介していい?」っていうから是非お願いしますって。
その方が事務所に来て作品を見た後、新人のアーティストライブのフライヤーを作って欲しいと言ってくれたんです。
A2サイズの平面フライヤーなんですが、テレビの展開図を配置して切って組み立てるとテレビになるデザインしたんです。そのデザインを見た他の部署の方が「こういうの作りたいんだよね」と言って、DVDのパッケージや販促の依頼を受けるようになりました。

取材者: すごい尖った感じのデザインを作られて。

斉須:そうですね。尖っていたと思います。若いということもあったと思いますが、怖いもの知らずなところがありましたね。当時の作品は勢いがあったように思います。

斉須:最初のおでん屋さんのも、ゴミ箱にすぐに捨てられないものをと考えて、利用する人のニーズを考え、メニューがPOPアップになるよう設計しました。そのため複雑な折になったんですが、内職代(折り代)で60万円かかるって言われて完全にコストオーバー。
でもクライアントさんが気に入ってくれたこともあって、自分たちも妥協したくないので、「分かりました。自分たちで5万部手で折ります」って。友達の家を借りてダンボール箱が20箱くらい次から次へと、部屋中ダンボールになっちゃって、5日間内職ですね。今はもっと上手いやり方があると思うのですが、当時は無我夢中でした。でも5万部折ったその熱意が次につながったと思います。

取材者: 最近はそこから尖ったテイストはだんだん丸くなって。

斉須:そうなんです。それがまずいなと思いますね。
下手にキャリアを積むと色々分かってしまう部分も多く、
前は分からないから行けたというのがあったと思うんです。
ただそれも、「えいや」でやってしまうのはまずい。
最近、松本弦人さんというデザイナーさんと会う機会があったんですが、「自分がドキドキするくらいのギリギリを目標にしなさい」って言われたんです。

思い返すと5万部折ったのもソニーさんの時もドキドキしながらやっていたんです。これウケるのかなって思いながらもどこか挑戦するような気持ちで作品を作っていました。それがいろんな方に認めてもらえたのかもしれません。可視感、要するに安心感が良いとされることに疑問を持つべきだと思います。だから自分がドキドキするギリギリのところを目標にするというのはすごいグサッと刺さりました。

今は組み立てるのはできるんですよ。
ただ組み立てたものを壊すということが、どう崩せば良いのか、どう壊せば良いのかというのが今の課題です。

取材者:ディレクターがその辺の部分も広げてあげる、そういうのもやれるディレクターが優れたものを作るのですか?

斉須:ソニーのディレクターさんは打ち合わせが5分くらいで終わっちゃうんですけど、本当に落書きのような手書きの紙を渡されて、これやって(笑)。それだけなので、え?ってああ、はい。これだけなんです。「こんな感じの、あとはもう自由にして」だけなんですが、私にはそのくらいの感じが逆にやりやすかったですね。細かいこと一切言わないから、こちらで全部考えられたので、とても楽しくできました。カンプを持っていくと「いいじゃんいいじゃん」という感じで、ほとんどそのまま採用されることが多かったです。感覚で話される方が私には合っていて、逆にすごく細かく緻密に言われてしまうと硬くなってしまうんです。
最近イラストレーターさんにお願いする時があったんですが、アーティストさんの場合もあんまり言わないほうが良い場合が多いんですよね。
迷った時に一緒に導くくらいにして、最初から答えを言っちゃうと、そこが一致すれば良いですけど、一致しない場合、相手が迷っちゃうじゃないですか。

取材者:全然アイディアないけどとりあえずパンフレット作ってくださいみたいなオーダーが来るんですよね。そういう時はどこから着想して持っていくのですか?

斉須:その会社の既に持っている色とか雰囲気とかまずヒントを得ます。

取材者: それは実際に会社訪問してみたりそういうことですか?

斉須:そうですね、商品だったら使ってみたりします。ウェブや他の販促物見て凄い貧弱だともうゼロからやろうと。要はその会社が何を信念としてやっているか、何を作っているのか、何を伝えようとしているのか、会社がどうなっていきたいのか、会社の立場と受け手の両方を考えます。全くない場合は、こちらから提案しやすいかもしれないですね。色を作ってあげる。こちらが会社のブランド性を組み立ててあげることで、新たな発見に繋がることもあります。

取材者:別のデザイナーさんもそういう場合はCI※1から作るという話をしていて。
それこそロゴまで突っ込んでいくみたいな話をされていて。

斉須:そうですね。できればそこから。ただCIを考えている会社さんは結構全体を考えられるんです。ロゴの大事さを知っているので。

星:その規模でロゴが変えましょうってなかなか難しい。

斉須:でも迷っている会社さんはチャンスかもしれないですよね。いっその事ロゴから変えないと根本的な全部のラインが整いませんよっていう提案していくとやるやらないは別としてもそこで初めて気づく。

デザインは一部を作れば良いんじゃなく、「世の中を変えていける仕事」だと思います。
さらにそれが次の世代に引き渡していけるものなので、やっぱりすごく責任があるという。自分がこうしたということに対しての責任を持てと。
良い悪いでは無く、なんでこのラインを入れたのか、何でこの色にしたのかそれに対して責任を持てないデザインはするなって言われたんですね。その論で責任を持てるなら何をやってもいい。

取材者: 一本の線一つにも理由が。

斉須:そうです。自分のデザインに対しても周りに対しても責任を持つというその姿勢が大事でそれが無いと結局、ああ言われた、こう言われた、じゃあ止めますと。

右往左往して何が何だかわからなくなってそれが世の中に広まっていくと、なんでもいい加減で良いんだっていうような、そういった雰囲気になってくると思うんです。

取材者:斉須さんにとって100人のデザイナーってどう利用されてますか、また重宝していただいてますか?

斉須:実はあまりコンペには参加していないんです。
その前にロゴ作成のサービスがあったんです。
その時はいいなって思っていたんですけど、でも、どうなんだろうと思ったんですね。
まずクライアントさんを知らない、一番大事な部分を知らないまま作った上で気に入ったのを選んでハイ採用みたいな。
お値段もすごく格安で海外ではありえない、あれの10倍100倍じゃないですか。
クライアントさんも、ああまた気に入らなければ変えればいいやっていうくらいのスタンスになってしまいがち。一番大事なCIが使い捨てじゃないですけどすごく軽く見られる原因になってきてしまう。

そこに凄く危惧していたところがあって、登録だけしている形になっちゃって。

そこからパンフレットになって、今の私のスタイルでは直接クライアントさんとお会いできる事が多いので、相手の考えや迷いがわかってやりやすいです。
ロゴのときに比べると普通の仕事としてあり。ロゴを会わないで作ることはまずありえなかったので。
文字面だけで何を汲み取れっていうんだろうって非常に作りにくかったですね。
たまたま気に入ったロゴにポチってしているというのがこれで大丈夫なのかなって。

取材者: 理由が無いですよね。

斉須:そうなんですよ。飽きたときにまた変えちゃえみたいな。会社としてもなかなか安定しないじゃないですか。そうするとどんどん色んなものがいい加減になりやすいと思うんです。パンフレットもとりあえず作ってという「とりあえず」が増えていってしまうと会社の成長にも良くないですし、お互いに良くないことになってきちゃうので。

取材者: 受注までのフェーズでディレクターがパワポの構成をかなり作りこんでクライアントに説明するケースがあるのですけど、それだけだとデザインイメージが出てこないから結局クライアントに伝わらないことも多いです。

斉須:もっとざっくばらんに、ここがイントロ、扉とか。そのくらいでもう。
テイストを決める時に力量とかその辺を決める時にコンテの入り口はあっても、そのあとは結局会って始めないとやっぱりゴールが読めないし、あいまいなままゴールしちゃうとお互いに気持ち悪いですし。結局また作り直しとかなる。

取材者:良いコンテンツができそうです。

斉須:もうなんか珍道中の私の人生四半世紀を。くねくね曲がっていますから。
でも一流と言われているデザイナーさん全てにおいてものすごい勉強されています。
例えば文字一つを、ひらがながどう変化していってるのか。今の教科書はどういう書体を使っているのかとか今の世の中をすごく見ているし、あとグリットも色々研究して自分なりのグリットを作ったりとか。

取材者:そのグリットってそもそもなんのために使うんですか?

斉須:グリットシステムです。例えば、A4に対してこれマージン※2何ミリって決めたあとに、3分割にしましょう4分割にしましょうって、設計図ですね、いわゆる。
3ブロックにした場合ここは文字にしてここを写真にしましょうっていう。

だからこの自分が作ったグリットがあれば、ページをめくった時に内容は違っても統一感がある。
雑誌のようなランダムのデザインはありなんですが、パンフレットなど説明的な内容の場合、ページでめくっていった時に読みづらくなってしまう。パンフレットを作る場合は、ほとんどグリットシステムを使ってます。真面目なものに関しては3グリットで文字細かくとか。

書籍で有名な祖父江慎さんは、ミステリーなど緻密に読んでいきたいようなドキドキしながら読むような場合はわざとマージンを少なくして行間も無くしてとにかくもうぎっしり。
心理的に例えばエッセイみたいなのはゆったり読みたいので、マージンを広くとって、行間も広めにとって、時間がゆっくり流れるような感覚で文字を組むとか。

そういうことの研究を、松本さんや祖父江さんは全く手を抜かずにやり続けていますよね。だからすごいです。研究や勉強をし続ける姿勢は見習わなきゃと思います。


※1 CI: Corporate Identity コーポレートアイデンティティ
企業コンセプトと経営理念をグラフィカルなロゴやシンボルマークを使用し、明確化すること。そして企業に対する自社員の認識と社外の人間が企業に対して持っている認識を一致させるもの。

※2 マージン
デザインをする際、印刷範囲やバランスを考えて最初に決める天地左右の余白。