Directors Interview

YAMASHITA
YUJI

DIRECTOR

JAZYブランディング株式会社
大阪オフィス チーフディレクター
兼コピーライター

大阪コピーライターズクラブ会員


--よろしくお願いいたします。

取材者:早速ですが、山下さんにとってデザイン、パンフレットってどういう存在ですか?

山下:デザインに関して言うと、自分にしかできないものを作るということですね。
自己表現というところまでもいかないですが、自分の考えなどを表現していくものですね。

取材者:クライアントにとってはどんな存在だと思いますか?

山下:パンフレットは、会社の特徴とか社風、キャラクターなど細部まで分かっていただくツールであり、紙も選べたりするので、ウェブとは違う良さがあると思いますね。

取材者:手に取る方にとってはどうですか?

山下:どういう会社であるか知るということと、知りたい情報が確実に入っているツールですね。クライアントのところでも触れましたが、紙を見て、触っただけで、高級感があるとか、親しみやすいかなども感じ取れますね。

取材者:手に取った方が知りたいと思う情報を提供するって結構難しいですよね。そもそもそれは何かというところもありますね。そのあたりはどのようにデザインやパンフレットに落とし込んでいますか?

山下:それはクライアントの目的に対してまずアピールできる幹の部分を探して、合わせて色々な情報を補強したりすることで「ストーリー」を作ります。クライアントがアピールしたいところを最大限考え、かつ手に取る方はこういうことを知りたいであろうと思うことを推測して作るというところですね。
とにかく「アピールできるストーリー」を探すというのを一番大切にしています。

取材者:それはクライアントに取材されてということですか?

山下:そうですね。どんなことをしたいかによって何をアピールするのかということが変わってくるので、まずはメインテーマとなるものを探します。それは企画の切り口の場合もあります。ですので、私の場合、インタビューをしているときに頭の中では図形を浮かべることが多いですね。あるときは縦軸横軸(マトリクス)を作り、お聞きした話のネタをそこにポンポンポンと置いていったり、移動させたり、前の話と今の話をつなぎ合わせたときにこうした項目になるのではとか、また逆三角形の中に順番に落とし込んで結論を考えたりしています。またクライアントは関係ない話のつもりでも、私の中では今の話と前の話は実はつながりがあって一つの結論になりそうだ、そうすれば、こんな補足情報はないだろうかなど、頭の中で構築しながらインタビューしています。

取材者:その時は、クライアントの担当の方と社長の想いが一致していないとなかなか会社の本当の想いは見えてこないと思うのですが、そのあたりはどう解決していますか?

山下:そうですね。よくある話では、クライアントご自身はここが強みだと思っていても実は外部から聞くと「それは差別化しにくいな」と思ったり、また、クライアントが重要でないと思っていることが実はすごいアピールであったりということはあります。そういうときは、手に取る一般の方の立場になって考え、こちらの方が実はアピールポイントなのでそれを訴求していきましょうと、方向変換を提案して、理解してもらうようにします。加えて、その方向転換をクライアントのトップつまり社長に進言する時に論理的に説明できるよう気をつけています。

取材者:最近ではクラウドサービスなどでかなり安い金額でライティングを頼めるところが増えていますが、そのようなサービスと山下さんとの違いはどの辺りですか?クラウドサービスの品質はどうですか?

山下:事例をたくさん見ているわけではないですが、それほど見劣りするような品質ではないと思いますよ。

取材者:あまり下手だという印象ではないんですね。

山下:明らかに何かの真似だなとか、変にひねってコピーぽくしているなというものにもたまに出会いますが(笑)、依頼者からいただく情報とか費用を考えると、まあ良くも悪くも品質的にはプロを名乗る人なら誰が書いてもこれくらいかなというのはありますね。

取材者:つまり、提供された情報だけからライティングをするだけなら誰が書いてもさほど差がないと?

山下:そうです。あの仕組みではクライアントにインタビューして深いところや依頼者自身が気づかないところに深掘りすることはないので、自ずとそうなると思います。情報も少なく、予算や条件も厳しい中で、コピーとかプランを作ろうとするとそこまでのものしかできないはずです。

取材者:とすると、クライアントが言っていない部分、気づいていない部分、行間も含めて想いや情報を引き出すのが本物のライティングだということですか?

山下:そうです。本当にクライアントの事を考えれば、「御社の価値を高めようと考えたらこういう方向じゃないですか?」とか、クライアントの担当の方、社長が当初こうだと思っていたことを覆していくこともあります。効率性だけで言うと、言われたものを言われた通り作るのが、一番楽です。しかし、間違っている可能性があり、プロの仕事に期待している人に対して、その部分を見て見ぬ振りをするのはプロ失格です。何でもかんでも反対するわけでありませんが、良いものを作るために手間ひまをかけ、提案ができるのが制作者としての「本当の仕事」だと思います。

取材者:山下さんはライター兼ディレクターという肩書ですが、ディレクターとして外部のクラウドサービスを使うという選択肢をどう思いますか?

山下:キャッチコピー1本とか、A4一枚のリライト程度の商品説明コピーなど、体裁を整える程度のものであれば、そのような選択肢もなくはないと思います。ただし、その場合は条件があります。それは自分で判断できて、具体的な修正を指示できることです。書いたはいいけど、修正がきくかどうかっていうのはすごく重要です。一度書いて、違う方向性で修正を依頼すると方向変換できないライターって結構いるんですよ。たまにですが、制作途中で急に上司から修正を言われて、Aっていう結論からBっていう結論に移りましたっていう時に、全部ロジックをひっくり返してすべて書き直せる力量があるかどうかは、かなり差が出ますね。あとはコピーライター自身があまり経験のない方の修正を聞き、具現化する能力があるかないかもかなり違いますね。クラウドサービスの場合は、このような経験が多い方は少数だと思います。

取材者:なるほど。それはなんか真理ですね。最初に自分が思っていたこと、自分の領域の中でなら書けるけど、はみ出ろと言われたら途端にアウトプットが出なくなってしまうみたいな。

山下:そうですね。あとコピーライターの技量の話で言うと、例えばある商店街のお店のコピーを書いてほしいという話になった時に、そのお店に何十年通っているおばちゃんには勝てないこともあると思います。私は大阪オフィス勤務ですが、そういう言い回しの上手いおばちゃんはいっぱいいますからね(笑)。でもプロはその商店街の次はITや高機能商品などの難しい話、医療や金融など、法律や規則を踏まえて表現するものに対しても同じレベルで書かないといけないですと。それはおばちゃん、すなわちプロ以外の方にはできないでしょうと、それがプロですよと。どんな業界業種でも読む人を納得させるクオリティを出せる人がプロだっていう話をいつもします。

取材者:なるほど。見識の広さや勉強量みたいなものですか。

山下:色んな引き出しがあって例えばITの難しい話でも、料理を作る例え話にしてわかりやすくするとか、もちろんBtoBのようなパンフレットもありますので、対プロにも納得してもらえる情報レベルになっているか、またターゲットに合わせた文章のタッチや印象になっているかなど、そういうことが変幻自在にできるのがプロですね。

取材者:先日のデザイナーさんの取材でも、一度いただいた要件からとりあえずアイディアを膨らませて、最終的に絞り込んでいくというお話しでしたが、ライターも膨らませられる大きさが力量だったりするんですね。

山下:そうですね。どれだけ発想力があるか、突き抜けたものを作れるかっていう、しかも突き抜けた中にもちゃんと「ロジック(論理)」があるかどうかとか。表面上の面白さや奇抜さだけでは納得してもらえませんから。

取材者:例えば、とりあえず会社のパンフレット作らなきゃいけないから問い合わせしました、っていうクライアントさんもいっぱいいるでしょう?
そういうゼロ状態のクライアントの依頼に対して、どうやって成果物に仕上げていくかを教えてください。

山下:先ほどお話しした具体例になりますが、まずは、作るには目的がありますよねっていう話をします。「売り上げを上げたい」、「会社をよく知って欲しい」とか、必ず何かはありますよね。ですので、「まず目的は何ですか?」ってことをお聞きします。その後に目的のためのセールスポイントや強みなどをお聞きします。最後に具体的なデザインの好みを聞きます。「デザインはどういう風にしたい」など、主観的な話ですね。

取材者:たとえばA4・4ページ作りたいので制作お願いします、っていうオーダーの時に、いやこれであれば2Pでいいですみたいな話もしますか?

山下:まずクライアントがこうしたいという要望を引き出したうえで、その情報を入れるためにはこれくらいですねと。そうするとこのページ数でよいのではと提案はします。あくまで情報を第一に考えて、見る方の立場で制作していますので。

取材者:いいデザインを作るために必要な条件とはなんでしょう?

山下:それは先ほどもお伝えした、「目的とそのための材料の吟味」をしっかりすることですね。

取材者:最後にディレクターにとって100人のデザイナーの素晴らしいところを1つ挙げるとしたら何ですか?

山下:適材適所で最適なデザイナーを選べるということですね。荘厳なデザインが向いているデザイナー、やわらかい表現が向いているデザイナー、男性的、女性的、子供向け、色々なデザイナーがいて選べる。しかも個人で企業と戦っているデザイナーばかりなので、志向も高く、言うべきところは言ってくれる。あと社内ではないので、それぞれが独自の思考や環境を持っていて、同じクライアントの案件を依頼してもまったく違うアプローチで制作されてくる点も素晴らしいと思います。