Designers Interview
SUZUKI
ATSUSHI
DESIGNER
1992年、Escuela Arte Granada (スペイン) 卒業後、日本に帰国し広告代理店勤務、1996年に渡西、広告代理店勤務後、デザイン事務所を設立。2013年株式会社アセンダ勤務後、2017年7月より再び渡西し有限会社Aivy Design設立。
話者1: 鈴木 功志氏
話者2: 取材者
話者3: 星(ディレクター)
このデザイナーへの質問・問い合わせ
クライアントにはデザインのロジックの説明はできるけど、エンドユーザーってそんな説明は知らずに見ている。直感でわからないなら誰もわからない。
──よろしくお願いいたします
取材者:さっそくですが、パンフレットって、鈴木さんにとってなんだと思いますか?
鈴木:自分の分身。子供というか。
捨てられていたりすると落ち込みますよね。破られたり、踏まれていたりすると痛いんですよ。
取材者:私も制作側の人間なのでわかります。使って使って使い倒していただけると嬉しいですよね。
良いパンフレットをつくるコツはありますか?
鈴木:コツというか、ディレクターと見ている方向が一緒になるときがあるんです。こういうのでって話をしたときにガチンと合っていくというか。
そうなった時に作ったパンフレットは、クライアントからも評価いただけることが多いです。
それが、最初のブリーフィング時に噛み合わない場合、ディレクターも無理をしながら、こうかな?とかってなっているケースだと良いものを作るのは大変ですね。
取材者:ディレクターの力量が問われますね。
鈴木:ディレクターがクライアントとの話の中でご要望の本質を汲み取っていて、たとえクライアントが欲していることでも、それはちょっとやめたほうがいいとか、やらないほうがクライアントにとって得だとかということをしっかりと伝えてそれをクライアントも理解していただいている状況を作れるかどうか。
星:クライアントとディレクターの時点で方向性をちゃんと決めさえすれば、あとは鈴木さんがデザインとして期待を超えてきてくれますから。
鈴木:制作進行じゃないクリエイティブなことまでも見ているディレクターはありがたいです。常にアンテナ立てて街を歩いていてもデザインを常に見ていて、それも単に見て、いいよなだけで終わっていないディレクターは実際にデザイン制作の段階になっても話が速い。
取材者:鈴木さんはそういうのは考えますか?街中でデザインがあると、これどうしてこういう風になってるのかみたいなのものは?
鈴木:あります。目に入ってくるのって自分の好みのものしか入ってこないと思うんですけど、なんでこうなってOKが出たのかそういうのは考えます。たまにとんでもないデザインがある時、どうしてこうなってしまったのかなとか。(笑)
取材者:クライアントとデザイナーとの間で、意思の疎通がうまくできなかったのかなとか、思っちゃいますね(笑)
鈴木:昔、“お客様は神様です”って言ってたCMがありましたが、そういう考えだとうまく仕事っていかないんだろうなと思っていて、クライアントもディレクターもデザイナーも同じチームとして信頼関係がないとやっぱりうまくいかないと思います。
例えば、デザインができあがってそのロジックをクライアントから聞かれたりすることもありますが、そこでロジックというけれどその前に感覚が先だと思っているんですね。
クライアントにはデザインのロジックの説明はできるし、それで納得するかもしれないけど、エンドユーザーってそんな説明は知らずに見ている。
直感でわからないなら誰もわからないわけで。
見たときに何だかわからないけどいいよな、でもいいと思うんですよ。
・・・っていう説明をして、「それで行こう!」ってクライアントに言ってもらうにはやっぱり信頼関係が必要です。
読みやすい流れや余白があるから読める
取材者:最近のクライアントで良いパンフレットができた事例を教えてください。
鈴木:ITのセキュリティの会社さんなどは良かったと思います。
取材者:面白そうですね、それ詳しく聞かせてください。
鈴木:クライアントの要望としては業界の匂いがしないような、よくある“鍵のマーク”とか“サイバー”っぽい、いかにもITみたいなのはNGって話で。
以前のデザインは典型的な“IT”していて、コンピューターをカチャカチャやっている写真の上に情報が飛び交っているような。
見る人たちがその業界の人だからってことですが、それじゃ差別化できないなと、特に表紙に関してはITと感じさせないようなデザインを考えました。
星:キーワードとしては、「暗号」と「守る」があります。っていうことしか鈴木さんには言ってなかったりするんですけど。
取材者:ディレクターは、クラアントから重要なキーワードを引き出して、デザイナーにはそれだけ伝えて、それ以上のことはむしろ伝えないようにしたってことですか?
鈴木:最初はいろいろ案があって、ただそれはあまり伝わらないかなとか、前回は学校がテーマでしたが、学校の黒板とか机があってとか。あとはニュートンの、考えの始まりがリンゴの何とかとか。そこまでいっちゃうと飛躍しすぎだなとか。
取材者:鈴木さんの中でイメージを膨らませていってるわけですね。
鈴木:はい。ただ、やっていて危険なのは入り込んじゃう時ですね。
取材者:ブワーって一回イメージを膨らませても、最後は1つに収束させなきゃならないですからね。
鈴木:その時にディレクターに相談して、冷静にこれはちょっと違うかもしれないからやめよう、とか、そういうやりとり。
取材者:ディレクターとしてはイメージを広げてあげる役割と最後収束させる役割のところを手伝ったという感じでしょうか。広げられるかというところと、きちんと収束できるかっていうそういう能力が必要ですね。
で、結局この「傘が建物を守っている」表紙に収束したわけか。すばらしいデザインですね。
中身のコンテンツについてはどうでしたか?
鈴木:文字量をだいぶ減らしています。
以前のは文字量が多く、無理やり詰め込んだ感があるのは否めなかったです、多分読まれなかったんだと思うんですね。
労力をかけているにもかかわらず、読まれていないと。どこに目が行くか、読みやすい流れや余白があるから読めるということに、クライアント自身が気づいてくれたのではないでしょうか。だから文字量は減ったとしても、品質としては上がっているとクライアントは感じてくれたのではないかと思います。
ちゃんと心理学の話があって、人間って興味のあるものにしか目がいかないんですって。食べ物と時計のポスターが2つ並んで立っているとします。
お腹が空いている時は食べ物のポスターに目がいく。
ところが満腹感がある時はそっちにはいかない。
時計買おうかなって思っている人は、そういえばあそこに時計のポスターがあったなという記憶だけが残る。食べ物のポスターが隣にあったことすら知らない。
人間の脳というのは興味があることにしか目がいかない。
じゃあ作っても無駄じゃないかって話になりますが、だから何かを作る時にはまず目に入るものを作るべき。
クライアントと話をする時に、お金を使う以上無駄にはして欲しくないので、希望はわかるけれども、こうやれば見てもらえるっていう話をしなければなりません。
パンフレットの場合、手に持つものっていう前提で、まず表紙はそういうコンセプトで作ります。展示会がある時にどこに置くかって話もします。じゃあタイトルは上に持っていかないと他の雑誌で隠れちゃうからとか。
生み出すパンフレットは自分の分身ですから本気で取り組みます。
取材者:たとえば、クライアント側でデザインイメージがなく、とりあえず会社案内を作りたい、おまかせでお願いします、という場合、鈴木さんはどのようにイメージを膨らますんですか?
鈴木:ディレクターがクライアントから拾ってきたキーワードと、当然会社概要だとか、企業としての理念だとか、それからそのクライアントがどこに向かっていきたいのかとかそういう情報をベースに膨らませていきます。クライアントの方で理念があったとしても、突き詰めていくとこっちの方向に行くべきじゃないかとかも考えて。そういう膨らませたイメージがクライアントとマッチできればクライアントの予想以上のものが出せるとは思っています。
多分、ディレクターとデザイナーの関係性って、そういうことなんだろうなと。クライアントとマッチできるデザインを与えられた納期の中で探し出す作業ができるチームかどうか。
星:ディレクター的にはクライアントの要望が明らかに悪くなると思ったら、読まれないですよと直接言うようにしています。営業的には辛いですけど。(笑)
取材者:良いコンビネーションだと思いますよ。うらやましい。
ところで、予算や納期は、どのようにデザインに反映されると思いますか?
鈴木:結局のところ予算や納期が厳しかろうが余裕があろうが、手を抜くことなんてデザイナーにはできませんよ。そこの葛藤はいつも頭にありますが、10万円だからクオリティーも10万円です、50万円だからクオリティーは50万円です、なんて器用にできません。常に生み出すパンフレットは自分の分身ですから本気で取り組みます。
取材者:では、どう帳尻合わせているんですか。
鈴木:コンセプトはそんなに変わらないですけど繰り返し考える時間は変えるようにはしています。予算と納期に余裕がある方が試行錯誤に費やす時間を増やすことができます。四六時中考えていられるし、時間をおいてもう一回見直して、本質の部分を深く考え直すことだってできます。時間があればひらめきも生まれやすいし、いろんなものからヒントを得るチャンスも増えます。
取材者:なるほど、時間ですね。
色々聞けて良かったです。
ありがとうございました。