Designers Interview
美術教師になるために就職したグラフィックデザイナー。「こっちが天職かも」
取材者:元々どういう経歴でデザイナーになられたのですか?
頓部:将来「これ」というものは曖昧だったのですが、大学入学の時に「教職はとっておこう」と思っていたので教職に必要な科目は1年から履修していました。そして大学4年の時に教育実習に行ったのですが、それがあまりにも楽しすぎて「これはもう天職だ」くらいに思い、実習中に「美術教師を目指そう」と方向性はだいぶ決まりました。
そうしたら、実習最終日に実習生全員に向けて教頭先生が「教師は社会を知らない人間が多すぎるので、教師を目指すなら是非1年でもいいので社会人をやってから教師という職に就いていただきたいと思っています」と仰って。それならばと思い、1年で辞めるつもりで普通の企業に事務職で就職しました。今考えると迷惑な話ですが…。
取材者:それって、けっこうな決断ですよね。その仕事はいい経験になったんでしょうか?
頓部:その1年が経つ頃、この社会人経験は“美術教師“になるにあたってあまり役に立っていないのではと思いはじめてしまい、ものづくりに携わりながら社会経験を積もうと思い、もう1年社会人を延長して今度は広告制作会社にグラフィックデザイナーとして転職しました。
取材者:ということは、学生時代にグラフィックの経験があったんですか?
頓部:大学では環境系の分野を学んでいたので、グラフィックはド素人、なぜ採用してくれたんだろうと思うくらい…。でもせっかく採用してくれたんだからと、グラフィックデザインとMacの操作をそこから鬼のように勉強しました。最初はアシスタント的なことばかりでしたが、それでも何をしても、とにかく楽しかったです。少しずつ仕事も任されるようになり、コンペ前、徹夜で家に帰れない日が続こうとも楽しくて仕方なく、「こっちが天職かも」と、そのままズルズルと…。
取材者:グラフィックデザインの面白さにのめり込んでいったと。でもその間、「やっぱり教師に…」と心揺れることはなかったんですか?
頓部:何度も揺れました。母校が美術教師を募集していた時もかなり揺れました。でも常に大きな案件を抱えていて、無責任に手放せないなという思いもあり、目の前のことを優先してしまいました。今でも非常勤の話があれば1年くらいはやってみたいです。
取材者:「楽しい!」があったから、どちらも天職と思えたんですね。
クライアントの「なんとなく…」は自分のアイデアの引き出しが増えるチャンス
取材者:仕事を楽しむコツなどあれば聞かせてください。
頓部:楽しむコツというわけではありませんが、仕事でツライと思うことが1つあったとしたら、その仕事の楽しいところを少なくとも5つ挙げるようにしています。その結果ツライと思うことより楽しいと思うことが自動的にたくさんになっています。
取材者:「ものづくり」自体には、もともと興味があったんですか?たとえば、子どもの頃は絵ばかり描いていたとか。図工が好きだったとか。漠然と憧れていた、とかでも
頓部:絵画教室は小学校1年生の時から通っていたので絵を描くのは好きでした。図工も家庭科も1つの課題に対して2つは作っていました。休み時間も図工室に行ったり、家庭科室でミシンを使わせてもらえるように先生に頼み込んだり。早く完成したいんです。そのため、うっかり雑になることもあり、気をつけてました。
取材者:あなたの仕事のやり方と他のデザイナーのやり方で、ここは違うなと思う、または意識して他のデザイナーとやり方を変えている、などあれば教えてください。
頓部:フリーランスになってだいぶ経つので、他のデザイナーさんのやり方がイマイチ分かり兼ねますが、基本的にPCに向かって手を動かすのは、できあがりが頭に浮かんでからが多いです。ひたすら手描きと参考になりそうなものをあさってる時間が長いです。
取材者:じゃあ、PCに向かってからは一気に上げる感じですか?あまり悩まないし手を止めないですか?
頓部:一気に上げます。途中、「あれ?思っていたのと違う…」となる時もありますが、そこは時間をかけて思っていた画になるように試行錯誤しますが。
取材者:フリーランスってモチベーションをいかに保つかも大事だと思いますが、そのために何かやっていることはありますか?
頓部:モチベーションが下がることはあまりありません。フリーランスということに対してだけでなく、デザイナーとしても女性としても人としても平常心でいられるように、常に前に進める自分であるように、静かな闘志を心のどこかに住まわせて生活しています。
取材者:クライアントがノーアイデアで、ゼロからパンフレットを作らなければならないってあると思うんですが、どういうアプローチで進めていますか?
頓部:「こういうパンフレットはあまり好きじゃない」「こういうテイストは苦手」というのはあらゆる角度からバンバン聞くようにしています。それでも「なんとなくイマイチ…」とか「なんとなくしっくりこない」とか言われることもあります。おかげで、「なんとなく…」にはすっかりめげなくなりました。自分のアイデアの引き出しが増えるチャンスだと思ってクライアントから何か引き出せるようにコミュニケーションの機会を増やすようにして進めます。何度もノーアイデアスタートで始めて、最終的にクライアントに喜んでもらった時の充実感を知っているので頑張れます。
人の心を動かせるデザイナー、人の心を動かせる人になりたい
取材者:ディレクターのいる意味ってなんでしょう?
頓部:私だけかもしれませんが、デザインをしていると比較的偏った思考に陥りやすいと思うのですが、常に客観的な視点を持っているディレクターは私にとってはなくてはならない存在です。
取材者:「100人のデザイナー」を使っていてよかったことがあれば教えてください。
頓部:経験値は常に上げていきたいと思っているので、いろいろな業種に携われるのは魅力です。
取材者:あなたのデザイナーとしての信念を教えてください。
頓部:私はいわゆる商業デザイナーです。「アーティストではない」ということを忘れずにと思っています。もちろん自分らしさや自分ならではのデザインは大事ですし、他の誰がやっても同じなら自分である必要性がなくなるのですが、やはりクライアントをうなずかせるものを作るというのが大前提です。その大前提に「プラス自分ならでは」の要素を入れていきたいと思っています。
取材者:将来どんなデザイナーになろうと思いますか?
頓部:デザイナーとしてだけでなく人としてもなのですが、人の心を動かせるデザイナー、人の心を動かせる人になりたいと思っています。
取材者:こだわっている趣味や好きな本、座右の銘などあれば教えてください。
頓部:カラダを動かすことが好きなので、できるだけ休みの日はカラダを動かしてリフレッシュするように心がけています。あとは読書が好きです。泣ける小説が好きです。心の浄化です。
取材者:どんな子供でしたか?
頓部:口癖が「どうせ」でした。やる前から「どうせダメだろう」と思っていたのでやらない理由を常に考えているような子どもでした。今考えると相当歪んでました。
取材者:自分の好きなところ、嫌いなところを教えてください。
頓部:好きなところ…考えたことがありません…嫌いなところはネガティブ&悲観的&後ろ向きなところです。「よくそんなネガティブなことまで思いつくね」と友人にも笑われます。
取材者:まったくネガティブな方に見えないのですが…!?むしろすごく前向きな方、という印象です。
頓部:ただ、今はそのネガティブな角度を少しでもポジティブな方向に向けるにはどうしたらいいのかを考えるようにはなったので、多少はポジティブな人になったのかも?!それが自分のものになったときに「自分の好きなところ」も挙げられるようになるのかもしれないです。